レンジャーの魅力を深堀り

「OYSTER PRINCE Ref.7808(オイスター プリンス)の存在」

『RANGER』を語るうえで欠かせないのが、“British North Greenland Expedition(以下BNGE：英国北グリーンランド遠征探検)”とTUDORの関わりです。

1952年(～1954年の2年間)、BNGEの約30人の隊員たちが、気候科学の基礎となるものを作り上げる為、北極圏の摂氏－66℃にもなる過酷な地での地質学・気象学・気候学・生理学などの研究と挑戦に挑もうとしていました。そして、それと同時期にチューダーは、初となる自動巻き防水時計「オイスター プリンスRef.7808」を発表し、その時計の堅牢性や精度、性能が確実なものかをテストし、証明する為に、BNGEのもとへ実際に30本のオイスタープリンスを送り込みました。なんと、この厳しい環境下で24時間、常に研究や生活をしている間、装着し続けてもらうよう依頼したのです。そしてこのプロジェクトのために用意された時計は、現地で想定される気温を考慮して“北極仕様”の特別な潤滑油が用いられたうえ、防寒着の上からでも着用できるよう延長パーツを備えていました。

また、遠征隊員たちの記録の仕方はというと、BBCが毎時発する信号と比較して、それぞれ着用しているオイスタープリンスの精度と変動をモニターしノートに記録する、というものでした。とても手間のかかる作業ですが、2年の研究の間、隊員たちにより細かく記録され、そのノートは帰還後、TUDORのもとへ返却され結果が報告されました。ですが、実際に使用された30本の時計はというと、歴史の中でほとんどが失われてしまい、実際に発見され今に残されているものは、奇跡的な1本のみ。隊員のひとり、機械工の訓練を受けていた整備士のデスモンド・"ロイ"・ホマード二等軍曹のものとされており、帰還後奥様に託していたこの1本の時計ですが、その時計を持っていた奥様が先に他界してしまい…しばらくして思い出したかのようにホマードが家中を探し回ったところ、何故かキッチンの引き出しの奥から発見したといわれています。探検当時の傷跡が残るこの貴重な1本は、TUDORに引き渡し、今はTUDORに大切に保管されています。

この研究結果と残された1本の時計、それらが現在の「RANGER Ref.79950」が誕生するまでの大きな情報源となり、TUDORの果敢な挑戦に大いに貢献しました。

また、グリーンランドから帰還した隊員の一人はTUDORに手紙も書いて送っており、アーカイブに保管されているその手紙には、「私が携行した時計は、驚くべき精度を維持し、手で巻き上げる必要は一度もなかった」と記されていました。
精度が良く実用性がある。そう報告を受けても、TUDORの創設者ハンス・ウイルスドルフは満足する事なく、挑戦する精神をもつことを忘れず、当時の「オイスター プリンス」のようなシンプルで堅牢で実用的、そして適正な価格が設定されたツールとしての探検時計のコンセプトを永続させたことで、ついに、BNGEが70周年を迎えた2022年、探検隊員のTUDORと科学への貢献に敬意を表し、現在の『RANGER(Ref.79950)』が発表されることとなりました。